ロングランエッセイ

Vol.71 爽やかさを掘り起こす

URB HOUSE PHOTO

 整理整頓が苦手なほうであったし、「さまざまな情報が錯綜する混沌のなかにこそ、正しい答えがある」という信念を持っていたので、整理整頓には余分な時間を使わないことにしていた。
 事務所をはじめてから、三十年も経ったことや、スタッフの数が少なくなったことから、保管しておいた資料や図面を思い切って処分した。保管してから一度も開いていなかったものがほとんどであったが、その量は、なんと七トンもあった。資料として溜め込んでいたものが、いかに使われていなかったか。そして、いかに不要なものを後生大事に溜め込んでいたのか、と反省した。片付ける時に迷って、「とりあえず」置いておこうという判断の軟弱さが、七トンの産廃を産んだのである。
 処分したおかげで、スタッフのスペースが、それまでの三分の一になった。煙草の煙に燻されていた三分の二の壁を、ホタテの貝殻入りの塗り壁にしたら、煙草の臭いも消えて、癖のない爽やかな感じの「がらんどう」になった。それまでイロイロ雑多なものに占拠されて、すっかり見えなくなっていた空間の「爽やかさ」が、はっきり見えるようになったのである。言い換えれば、雑多なものに埋まってしまっていた爽やかさを掘り起こしたのである。
 この「がらんどう」の空間に、コンクリートブロックを脚にして、木の天板を載せたテーブルを造ったら、展示するのに良さそうなスペースができた。何をするかまだ思案中である。
 きっと、どこの住まいでも同じことが起きているに違いない。雑多なものを捨てると、埋まってしまっている「爽やかさ」を、掘り起こすことができる。

住宅雑誌リプラン・86号より転載



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