ロングランエッセイ

Vol.74 路面電車

URB HOUSE PHOTO

 私の事務所は、札幌の山鼻地区の西線にあって、路面電車が見えるし、音も聞こえるので、「札幌の街のなかに住んでいる」という実感がある。近くの信号で、歩行者のために停まっている電車を見ていると、丸ごと塗装して、これ見よがしに走っている車両が、かなりある。聞くと市電の車両の半分が、広告を掲げているという。あまりに、これ見よがしなので、事務所の窓から一台ずつ写真を撮ってみたが、これが、なかなか凄い。これらが、ヨサコイ、ビヤガーデン、オータムフェスタ、ホワイトイルミネーション、雪祭りなどのときに、盛り上がっている大通公園の一本隣の南一条通りを、これ見よがしに一日中走っているのだから、驚く。観光都市・札幌だろうか。
 路面電車は、環境に優しい交通手段なので、これからもっと見直される。乗客一人当たりの二酸化炭素排出量が、タクシーの十分の一、自家用車の六分の一、バスの四分の一という。そのため、環境的に負荷の少ない街づくりを目指すドイツでは、都市の中心部に入る車を少なくして、路面電車を活用することが試され、さびれ始めた街の中心部が、活気を取り戻しているという。
 四月に訪れた、雪雲の深く垂れ込めた富山市にも、モダンな路面電車が走っていた。街中心部の計画と一緒に進められているせいか、古い面影の街に爽やかな風が吹いているように感じられた。こういう路面電車なら、札幌の大通公園のわきを走らせて、乗る人も見ている人も楽しめると思う。 札幌を、世界に先駆けてゴムタイヤの地下鉄を生み出した自負を持って、訪れる人も楽しめる、新しい美しい路面電車の走る街にしたいと思う。

住宅雑誌リプラン・89号より転載



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