ロングランエッセイ

Vol.75 松本中町通り

URB HOUSE PHOTO

 真っ黒な松本城の近くに、なまこ壁をもった蔵づくりの中町通りがある。壁を斜めの太い目地の入ったなまこ壁風な意匠にするように指導されている。道幅も四メートルぐらいの一方通行なので、通り抜けようとする車は少なく、歩行者優先の感じがするので、そぞろ歩くのに丁度良い。歩く人に優しいスケールの道であるが、札幌にはない。有名なクラシックのサイトウ・キネン・フェスティバル松本や松本工芸展などの期間も、たくさんの人たちであふれる。
 その松本で、北海道仕様の温かい家をつくることになった。それも中町通りのすこし先なので、町並みを考えてつくることにした。町並みを整えるには、両隣との連続感が大切である。縦の木製格子で表情を整えながら、間口いっぱいに低い庇を設け、両隣の家とつながった感じにした。家屋も、平屋と二階建ての二棟に分けて、小さく見せるようにした。建物の外観は、土蔵のような収まりを用い、色合いは、松本城の黒さを引き継いで、濃い鼠色に抑えたため、目立つこと無く落ち着き、町並みになじんだと思う。
 また、道沿いにオープンな車寄せを設けて、道行く人にもゆとりを感じられるようにした。さらに、その奥につくった中庭は、建物に囲まれ落ち着いた空間となると同時に、道行く人にとっても中の暮らしが感じられる、潤いを感じさせるものになった。町並みづくりは、表面の装いだけを整えるのではなく、そこでの暮らしの一部分が垣間見えたり、感じられることによって、そこでの暮らしぶりが道や街に、にじみ出るようになってこそ、その街らしい魅力が生まれ、自分たちだけの表情となってくるのである。
 この家も、十年もすると中町通りにすっかり溶け込んでしまい、探しにくい家になっているのが、一番良いと思う。

住宅雑誌リプラン・90号より転載



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