ロングランエッセイ

Vol.86 塵取り

URB HOUSE PHOTO

 最近、電気掃除機の代わりに勝手に掃除するロボット「ルンバ」が評判である。三十五センチぐらいの円盤状のもので、ひものようなものを回しながら、埃を集めて動きまわる。何かにぶつかると方向を変えて動き出す。せっせとゴミを拾ってはいるが、ごみを目指して動いているわけではなく、通る道に落ちているごみを拾うだけだし、ぶつかったところから自動的に方向が変わってしまい、一度通った処でも、何度も行ったり来たりするので、効率的ではない。見えているごみの周りを何度もうろうろするのを見て、イラッとすることもある。
 しかし充電が少なくなると、なんと自分で勝手に充電器の処に戻っていって勝手に充電し始める。それを見ると、自分の小屋に戻った犬のような可愛さを感じる。そのため愛称をつけるのも、わかるような気がする。たぶん、外出する間に勝手に掃除を終えて、元に戻っているようにさせようという魂胆である。それには、床の上に置いたものをすべて椅子の上やテーブルの上にのせてからでないと、出かけられない。しかし、椅子やテーブルの脚の間にも入り込んで、ごみを拾ってくれるのだけは、ありがたい。
 日本には、箒、はたき、塵取り、雑巾という、電気も使わず埃も少ない、静かでほとんど音のしない伝統的な掃除道具があったが、家具の少ない生活に合ったものだったせいで、最近はすっかり見かけない。数年前にデンマークで使わなくとも飾っておきたいほど優れたデザインの塵取りセットを見つけた。これは、ごみだけをあっさりとすくいあげて、部屋をきれいにしようとするもので、ごみが少ない状態でこまめにさっと掃除する暮らし方に向いている。「ルンバ」に較べて電気代もかからなければ、音もしない、無駄な動きもしない、効率的で環境に優しい道具なので、こちらを薦めたい。同じように、今の暮らしにあった優れたデザインの箒、はたき、雑巾が欲しいと思う。

住宅雑誌リプラン・101号より転載


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