ロングランエッセイ

Vol.98 沈下橋

URB HOUSE PHOTO

 高知に行ったついでに水かさが増すと隠れてしまうという「沈下橋」を見に行った。帰りの飛行機までまだ時間があったので、四万十川でもっとも長い佐田沈下橋まで行くことにした。レンタサイクルショップの人に、片道50分くらいですと言われ、電動がないかと聞くと平坦ですから大丈夫と言う。天気も良いし、爽やかに四万十川の堤防をサイクリング。しかし、半分くらいまで行くと道は狭くなり、曲がりくねり、結構な勾配があるではないか。ママチャリでやっぱり40分はかかった。
 沈下橋は、水かさが増した時に流されて来たものが引っかからないように、手すりを付けていない。いざ橋を渡ろうとすると手すりがないので、橋という感じがしない。道路が川の上を飛んでいるように見える。普通の橋は、川を征服したような強引に渡っている感じだが、ここでは、川を流れる空気に触れながら、風を感じながら渡っている感じである。こんな橋を渡ってしまうと、手すりの付いた橋なんか無粋で野暮で渡る気がしない。手すりの付いた橋は川をしっかりした実線で、護衛付きで渡っているようだが、こちらは川をまるで点線で、爽やかに渡っているような軽さがある。
 雨が続いて水かさが増して橋が水没した後、翌日、晴れた空の下で橋が再び浮かび上がってくるのを想像したら、なぜか楽しい気分になった。来て良かった。また、自然と馴染む、自然に寄り添ったものづくりの基本とその大切さを教えてもらった。帰りは下りで楽なはずなのに、海からの向かい風が強くて難儀したが、自転車だったからこそ、四万十川と沈下橋を身近に感じることができたと思う。
 北海道にも、雪や寒さに対して上手にやり過ごす知恵があるに違いない。それを見つけなければと思う。

住宅雑誌リプラン・113号より転載


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