ロングランエッセイ

Vol.104 豊平峡ダム

URB HOUSE PHOTO

札幌に50年以上も住んでいるのに、初めて豊平峡ダムに行った。原子力発電所のことが大きく取り上げられ始めた頃、北海道にはどんな発電所があるのか見たいと、7年前から毎年、森町の地熱発電所、十勝の牛糞の発電所、苫前の風力の発電所、泊の原子力発電所、伊達の火力発電所、洞爺湖の温泉熱発電所と行って、今年は、石狩に工事中の天然ガス発電所を見学して、最後の締めに水力発電所の豊平峡ダムに来たのである。子どもの頃から水力発電のシステムに馴染んでいるせいか、それまでに見た、新しい技術がふんだんに詰め込まれた発電所と比べると、ここはゆったりとのびやかで優しい感じがした。ダムの高さは壮大であるが、コンクリートの擁壁が直線ではなく、曲面に作られているせいであろう。弾けるように放水していたダムの水は、霧のようになって、紅葉の山肌に消えていき、ダムの上の方では穏やかな水面に紅葉の色が映り込んでいた。ダムに貯められた膨大な水が果てしもないエネルギーを持って、静かに佇んでいると思ったら、懐の深い、どっしりとした安心感が湧いてきた。
 同行した人が、これまでにしっかりと造られたダムは、少なめに貯めているので、水位を上げれば一気に容積が増え、発電も増えるらしい。などとささやくので、ますます水力発電とダムが好きになった。送電する技術の効率を上げる研究に力を入れて、既存のダムを活用することを考えて欲しい。近頃、ダムが好きで、写真を撮ってまわるダム女が増えているというが、豊平峡ダムの曲面の美しさを教えたい。


住宅雑誌リプラン・119号より転載


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