ロングランエッセイ

Vol.106 白川郷

URB HOUSE PHOTO

今冬の札幌は、雪が少なくて過ごしやすかったが、北陸や長野ではとんでもない雪に見舞われて、交通渋滞が数日に渡った。そのピークを過ぎたあたりに、雪に埋まった飛騨高山白川郷に入った。かつて夏に訪れたときは、峠を越えると突然現れる合掌造りの屋根を見て感動したことがある。
 しかし今回、白川郷を一望できる丘から見た、雪の中の合掌造りの眺めは、それどころではなかった。まるで、雪山の連峰を遠くに望むような絶景である。かなりの急勾配の屋根なのに、新雪が降り積もったまま、くっついて、合掌造りの家が綿の布団をかぶったように見える。天気も良かったおかげで、温かそうな、優しい感じにさえ見えた。
 その急勾配の屋根にへばりつくように雪を落としてる人もいた。トタン屋根なら積もらずに、降った先から屋根を滑って落ちていくが、茅葺き屋根なので、雪が次々にくっついていくようだ。こっちの雪は、湿っているせいで余計にくっつくに違いない。暮らす人たちにとっては、迷惑千万に違いないが、景観としては、絶品である。豪雪による交通渋滞を見越して寄りつかない日本人と対照的に、外国人がたくさん、訪れていたが、歩くのにも苦労していた。この景色をさらに楽しもうと夜にはライトアップするというが、姑息である。家の灯だけが、ポツポツとあるからこそ美しいというものである。
 今の北海道では、屋根に雪の乗った冬景色を見ることができない。雪の降りしきる中に、ツルッとした屋根が並ぶ風景は、寂しいと思う。


住宅雑誌リプラン・121号より転載


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