ロングランエッセイ

Vol.112 アオハタ

URB HOUSE PHOTO

「医者は手術や治療の不手際で死亡したら、土に埋葬して隠す。建築家は不具合に見えるところに樹木を植えて、その不手際を隠す」という言葉を聞いたことがある。医者の話は土葬をしていた昔の話であろうが、建築家の話は今も生きていると思った。硬いブロック壁の感じを和らげて、むしろその魅力を引き出す樹木に出会ったからである。
 住宅地の奥まった静かな敷地は、方位が45度ほどずれていたので、少し変わった形の家になったが、2018年の暮れから造り始めて、2019年のお盆には引っ越すことができた。新しい家での暮らしを見に行ってみたら、留守でインパチェンスの鉢を玄関脇に置いてきた。次に訪れた時には、玄関脇に爽やかなアオハダの株立ちの樹が植えられていて、紅葉し始めていた。脇にあるインパチェンスとのバランスも良く、ブロックの持つザラッとした素材感に映えていた。ブロックの無機質な壁には、強い色が似合うので、窓枠には濃いエンジや深緑や濃紺をよく使う。ここでは1階の扉をオレンジに、2階の扉は紺にしたが、アオハダの細身の枝や葉と絡んで、いっそう際立って見える。樹木で隠したというより、この樹木でブロックの持つ優しさを引き出したといえる。
 奥さんは、アオハダを茅ヶ崎で初めて見た時から気に入って、五年ほど前から「家を建てる時には植えるから」と植木屋に頼んでおいた樹だという。細い枝ぶりで爽やかな風情であるが、三十年ものだといい、安くはないという。植木屋も玄関先にアオハダを植えてみて初めて、ブロックの壁とアオハダの相性に気付いたのか、次にブロックの家を造るときには「アオハダをよろしく」と言われた。
 逆に、ブロックのおかげで、アオハダの魅力が見えてきたとも言える。これからブロックの家を建てる時は、アオハダを玄関先に植えてみようと思った。


住宅雑誌リプラン・127号より転載


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