ロングランエッセイ

Vol.114 丸い角

URB HOUSE PHOTO

近代建築を牽引した建築家は、フランスのル・コルビュジエ、ドイツのミース・ファン・デル・ローエ、アメリカのフランク・ロイド・ライトの三人といわれるが、私は、フィンランド生まれの建築家アルヴァ・アアルトを加えたい。アアルトは、寒冷地フィンランドの環境になじんだ有機的な住宅や建築を多く造っているので、北海道で建築設計をするものにとって、大きな存在である。
 フィンランドには何回も行っているが、今回ようやくヘルシンキのアアルトの住宅とアトリエを訪ねることができた。二月に行ったせいか見学者はわれわれ三人だけで、日本に来たことのあるガイドの説明が分かりやすく、細かいことまで聞きながらゆっくり見ることができた。人が少ないので手当たり次第に写真を撮っていたが、時間に余裕もあったので、ソファーに座った時に見える低い目線で、写真を撮ってみたら、びっくりするほど見える景色が変わった。
 周りに見える家具を含めて何処にもエッジの効いた角が見えない。テーブルの角が丸い、壁の本棚も、スツールも、グランドピアノも丸い角で収められて、何処にもとんがった角がないので、居間全体が柔らかい感じがした。居間の空間に抱擁感が感じられ、もう少しここにいても良いな、もっといたいな、お茶でも出してくれたらもっと良いな、と思えた。グランドピアノもある広さなのに、居間の重心が低く抑えられていて、安堵感がただよい、いつもの茶の間にいるような気分だった。ノールマルクにあるアアルトの傑作住宅、マイレア邸の居間で感じた抱擁感と安堵感と同じだった。そのあとに見学したカルトゥーリ・タロという千五百人を収容できる文化会館の大ホールも、空間の重心が低く抑えられていて、包まれる感じが心地良かった。アアルトの建築空間の本質と真髄を感じることができた。
 住まいの居間には、広いことよりも、このように重心が低く抑えられ、エッジの尖らない、包まれるような空間がふさわしい。


住宅雑誌リプラン・129号より転載


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