ロングランエッセイ

Vol.123 屋久島の石置き屋根

URB HOUSE PHOTO

2022年五月に、鹿児島県の二つの島を初めて訪れた。最初の日は奄美大島で、建築家仲間の住宅や診療所を見学する勉強会に参加し、翌日は一人で屋久島へ渡った。屋久杉を見る見学コースを歩いた後の帰り道に、屋根に石を載せている家を見つけ、ガイドに聞くと、ここは新築だけど、明日は石を載せた古い家を見ることができるといわれた。次の日、屋久島一周の途中、石置き屋根が並んでいるのに出会い、興奮して写真を撮りまくった。一息ついたところで事務所らしいところに行くと、ここを運営している息子さんがいた。三十年前に、五十歳で退職した父親が中心となって、他の集落に残っていた石置き屋根の民家を移築して、妻と息子たちの四人で、民宿として営業してきたという。江戸時代の民家、明治の民家、昭和の民家と次々に移築し、全体を整えた後も二軒移築したせいか、もとからの集落のように見えた。
 私は、風、雨、雪に耐えるぞという表情に見える石置き屋根が好きで、佐渡の宿根木まで見に行ったことがある。佐渡では、屋根の桟木の上に石を横に並べるのだが、ここでは台風のためだろうか、屋根の上に桟木を十字に組み、升目ごとに花崗岩の石を載せていて、佐渡の屋根より抽象的な、理性的な感じのする屋根だった。
 といっても私は、石置き屋根に雪が載っている姿の方が好みで、雪を載せた屋根を探していた。昨年雪の落ちない屋根材を見つけ、ホテルの平屋部分に使うことができ、そのホテルが今年の暮れには開業する。今冬には雪に埋もれるような屋根が見られそうだ。


住宅雑誌リプラン・138号より転載


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