Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.1「素顔」
写真
 眼の回りを黒っぽく化粧している人に、そのからくりを聞いてみた。まつげにマスカラ、まぶたにアイシャドウ、目の縁にアイ・ライン。鏡に顔をつけるようにして眼の回りをていねいに仕上るという。これらの化粧の色は、どれも暗い色で、小さな眼を大きく見せる効果がある。あいかわらず人気者の、パンダの顔立ちをまねているようなものである。では、その効果がいっそう高まる。化粧をすっかり落としきった素顔を見る機会がないので、その化粧の効用は、わからない。わからないのが良いのかもしれない。人の顔は、親からの贈り物であるから、それを大事に、上手に見せることは決して悪くはない。
 人を目鼻立ちで判断してはいけない、精神と心が大事である。しかし、住まいはこれからつくるものだから、その目鼻立ちを美しくつくることができるはずである。にもかからわず、何も考えず無造作に開口部をつくってしまい、不細工な顔をつくっていることが多い。それを隠すために、アイシャドウたっぷりの窓、アイラインの濃い窓を取り付けて、しなをつくっている家が多い。町がうらびれた酒場のようにさえ見える。
 素顔を美しくつくるのは、簡単なことである。窓の大きさや位置を決めるときに、住まいの顔立ちを考えながら、慎重に決めていけば、思いもよらぬほど、美しい素顔の家が生まれる。住む人のためだけでなく、道ゆくひとのためにも、美しい素顔をつくる、優しさが欲しいものである。化粧のいらない素顔に美しい住まいの建つ町は、美しい町並みをつくる、そんな町にしたいものである。

住宅雑誌リプラン・16号より転載
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