Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.21「雪見酒」
写真
雪の少ない雪祭りの後、急に雪が降り始めた。 待っていたように雪見酒の誘いがきた。2階の屋根を見渡せるように造った雪見櫓は、3方をガラスに囲まれている。
昨夜の吹雪のおかげで、雪のなかにすっぽり埋まったように雪漫々の風景である。
小さな塗りの文机に酒を載せて、白磁の杯で飲む。明かりに照らされた雪が静かに舞い落ちるのもきれいであるが、風が強くなって雪が激しく流れるほうが、吹雪に飲み込まれたようで迫力がある。深い海に潜るとその紺碧の色のなかで、神秘的な空間体験をするというが、ここでは揺らめく白色に神秘を見る。風の強さによって、雪の流れがせせらぎになったり、速水になったり、奔流になる様子を見るのは飽きることがない。
暖炉で燃える炎の揺らめきを眺めるのも飽きることがないのと同じように、心落ち着かせるこの揺らぎは、人間にとって根源的な揺らぎの旋律のように思える。ただ、毎日むやみに忙しなく働き回って、あくせくするうちに、もともと持っていた人間の旋律を失ってしまっているのであろう。炎や雪の流れの揺らぎに遭って、その旋律を思い出すと心底の心に響いて、身じろぎできないほど見つめていることになるのに違いない。
吹雪のなかで揺らめく雪の舞いは、明かりの消えた夜の空でいっそう神秘さを増して、より清洌な魔界を造るので、無理に交わす言葉も要らない。酒が喉を通ると雪のなかでシンと音がする静けさがある。日常を超えた精神性にも、心を配りたいものである。

住宅雑誌リプラン・36号より転載
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