Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.34「楢(なら)とタモ」
写真
 定山渓のあるホテルに、楢(なら)、樺(かば)、楡(にれ)、タモと名付けられた特別室があった。それぞれ名前のとおり、造作材に楢、樺、楡、タモを使って造られた12帖と8帖の二間続きの落ち着いた和室で、ゆったりとおおらかな感じであった。
 杉や檜などで造った繊細で、華奢な凝った造りとは違って、おおらかなでき上がりでありながら、品が良く、趣味に流されない端正なたたずまいは見事であった。これらを手本にして、いままでの和風と違う北海道独自の和、敬、静、寂の情感にあふれた、心安らぐ空間が造れるに違いないと思った。
 もう二十五年も前であるが、それ以降、和室に限らず道産材をできるだけ使うようにして独自の空間を試みてきたが、これらは決して安い材料ではないので、予算上、我慢をすることも多く口惜しい思いをしてきた。  ところが、昨年あたりから、これらの材料が急に安くなり使いやすくなってきた。これは「道産材をふんだんに使う」チャンスとばかりに喜んでいたら、「楢やタモを使うから、北海道の材料を使ったとは言いきれないぞ。安くなったのは、中国やロシアから大量の楢やタモが、輸入されたからだ。本物の北海道産だけ、使っているのか」と詰め寄られた。
 ショックである。中国やロシアの安い輸入材が、大量に入ってきたことも知らずに、北海道産材を使おうと叫んで、楢やタモを勧めていたのであるから、赤面ものである。否、騙しに近いではないか。原木を輸入して、北海道で製材するのだから北海道産でいいじゃないか。稚内に入るロシア船からの毛蟹を稚内産の毛蟹というのと同じじゃないか、という人もいるが心底納得することができない。
 わたしは、あの二十五年前の「北海道産の材料で」と意気込んで見た夢を捨てるわけにはいかない。もっと、北海道にこだわっていたいのである。北海道の船から揚がった毛蟹を大事にしたいのである。

住宅雑誌リプラン・49号より転載
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