Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.41「ろうそく」
写真
 デンマークではどこの家でも、お客をもてなす時には、とっておきのろうそくを燈すと言う。ろうそくの明るさのなかで、顔を近づけながら話すことが、親密感を高めるからに違いない。確かに、デンマークのレストランでは、どこでも十ワットから二十ワットくらいの電球しか使っていない。当然一つだけでは足りないので、暗くなるところには、それぞれ必要な明るさのものが用意されている。そのため、部屋のなかにいくつもの光のかたまりとそれを囲む人の輪が、あちこちにできる。そこでは、声の大きさも高さも自然に控えめになり、落ち着いた時間が流れることになる。ホテルのラウンジなども、一人でも寂しくない優しさに満ちている。そのためか、北欧の照明器具は心を込めて造られていて、どれも優しい表情を持っている。
 灯りに対するこだわりは、居間やレストランだけに限らない。デンマーク第二の都市オーフスでは、レストランのような優しさのあふれる市議会場に出会った。いくつもの、柔らかで優しい明るさの照明が、天井からふんわりと浮いたように漂っていた。壁にも同じデザインの照明があって、いっそう優しい雰囲気を高めているので、ここでは、喧喧諤諤の議論ができないのではないか…と思うほどである。
 市長の席だけがわずかに高く、背後に木製の光背があることで、市長の居所をはっきりさせているが、丸く並べられた議席は互いの顔を見ることができるので、討論より相談という姿勢が生まれそうである。  日本の議会場も、こんなふうに造れないものだろうか。

住宅雑誌リプラン・56号より転載
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