Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.43「碍子(がいし)」
写真
 リプランの社屋が完成した。オール電化の建物だとは外から見ただけでは、判らない。外から見ても、電気をうまく使っていることを判らせたいので、長いアプローチに沿って古い電信柱を六本立てて、電線を渡らせてみた。かつて電気が大事なものであった頃の感じが出た。傘の付いた懐かしい感じの外灯を付けたせいもあって、炭鉱の住宅地の雰囲気にもなった。電信柱をつないでいる電線が大事なものに見えるし、電気が伝わってるという感じがして、電気はありがたいなあーと思う。
 ここでは屋内のほうも、小さくて白い磁器でできた「碍子」を使って、露出で配線しているが、これは美しい。五十年ぐらい前は、大きな倉庫などで見かけられた配線の方法であるが、今はほとんど見ない。こういう配線ができる職人はもういないといわれたが、たまたま休業していた職人を一人、ようやく探し出した。久しぶりの仕事だから、要領を思い出すのに時間がかかったに違いないが、約三百五十個もの「碍子」を使って、一人で配線した。直径四ミリほどの線が、天井に沿って平行に何本も走っているのを見ると、電気が勢いよく通っているという感じがして、わくわくする。いつもは、天井の中に隠されていた配線が、表に出てきた姿には美しささえある。
外側だけがきれいに造られたり、見え方だけが大事にされる時代になっているせいか、美容整形やエステの話題が男女を問わず多くなっている。しかし、あまりに表面的なところばかりが、評価の対象になっている。もっと、うわべの表面の下に隠されているものの魅力を知ること、見ることが大事ではないだろうか。

住宅雑誌リプラン・58号より転載
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