Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.52「名作」
写真
 「建築家が建てた幸福な家」という本が、永いあいだ住宅雑誌にかかわってきた女性記者から出された。どの住宅雑誌にも、出来たばかりの美しい住まいが、写真とともに魅惑的に紹介されている。のびやかで落ち着いた感じの居間、すっきりと片付けられたキッチン、爽やかな陽の射し込む浴室、工作道具がキチンと壁に並べられているホビールーム、朝の光が優しく差し込む寝室、仲良く遊んでいる子供室。さらに庭につながるテラス、心やすまるガーデニングなどを見ているうちに心は踊り、胸は高鳴る。
 そういうなかで、「いろいろな建築家から新しい住宅を見せていただくたびに、この家に住むのはどんな家族なんだろう、どんな生活をしていくのだろう、年月がたつとどのようになっていくのだろう… 」とずっと気になっていたという。家を建ててから二、三十年も経っているのに、上手に住み続けている二十四軒を訪れ、住む人からここまでにいたる住まいと家族の歴史をじっくりと聞き取り、雑誌に紹介したことが、好評だったことから、一冊の本にまとめられた。さまざまな家族とそれぞれの建築家が、これが自分達の求める住まいだと心を込めて造った住まいには、凛とした建築家の姿勢と住む人の心構えが、いまでも、はっきり見ることができる。そして、二十年を超える「時」が、その住まいに、経済的に建築的に、そして社会的に評価を下しているが、住まいにこまめに手を入れ、心地よく住まい続けている家族が描かれていて、住まいを造る者にとっては、大変嬉しい。
 本の帯に書かれている「ここに紹介する建築家が設計した二十四軒の住宅は、原形をとどめながら二十年以上生き延びてきたこと、住人が愛おしんで、住み続けていること、それだけでも私の中では充分に『名作』になっている」という言葉が、なかなか泣かせる。

住宅雑誌リプラン・67号より転載
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