Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.59「アルベロベッロ」
写真
 春アルベロベッロ到着は、夜遅くになった。
 次の朝、ホテル近くで可愛らしいとんがり帽子の家を見つけた。ガイドが朝食の後に案内してくれた集落は、全てがとんがり帽子であった。見ているだけで、顔がほころんでくるほどであった。おまけに傾斜地なので、奥にあるとんがり帽子が、前のとんがり帽子に重ならずに、とんがり帽子が次々と出てくるように立体的に見える。
 観光客が増えたせいか、みやげを売る店も多いが、なかには自家製の小物やレースを売っている店もあるので、土地の暮らしが見えてくる。道沿いの花やベンチも考えて置かれていてきれいだけれど、少し観光地っぽいにおいがして気になった。でも、とんがり帽子の家並みを見たときの感動は、はるかに魅力的だった。意外にも、このアルベロベッロにも日本からのバスツアーの人がたくさん居た。お国訛りのきつい年寄りたちもいて、すごいねーと言いながら、みやげ屋をのぞいていた。
 昔あなたの住んでいた家が軒を連ねている姿を、アルベロベッロの人が見たら、同じくらい感激したと思うよ。
 その後、チステルニーノというすべての家が真っ白に塗られた街に向かう道すがら、とんがり帽子の家を工事しているのを見た。今も同じように作っていることに感激した。トスカーナ地方では、家を作るのにその地域の伝統的な風景に似合うことを要求されるというが、ここプーリア地方でも同じように指導されているに違いない。
 このとんがり帽子の中は、白い漆喰に包まれた小ぶりで親密感のある空間が連続していて、また顔がほころんだ。
 そう、アルベロベッロでは、顔がほころびっぱなしであった。

住宅雑誌リプラン・74号より転載
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