ロングランエッセイ
Vol.81 アクロス福岡
十六年前にできたアクロス福岡に登った。建物の南面を一階ずつ後ろにさげて、段々畑のように十三階までテラスをつくって、樹木を植えたものである。建物がすっかり植物で覆われてしまい、まるで森のようになったのを見て登ろうと思った。アクロス福岡という建物を登るというより、アクロス山に登った感じである。驚くほどあっという間に十三階の高さを登り切った。少しずつセットバックしている南側の斜面に造られた階段を、ジグザグに登るだけのように思っていたが、細かな配慮が施されていて、次々と上がって行くことができた。蹴上げ十五センチ、踏み面二十七~八センチの緩い階段は上り下りしやすく、折れ曲がりの踊り場には見晴らしテラスがあり、ベンチも置いてあった。大きな緑の斜面の中央に唐突に建っていた建物の屋上は、屋外ステージと観客席になっていたし、階段や踊り場をぬうようにカスケードや滝がつくられて、その音の効果も散策するものに心地よかった。昼休みのせいか、体力作りや健康のために階段を上り下りしている会社員の姿もあった。
わずかの時間ではあったが、アクロス山を堪能した。この建物を計画する段階で、この姿を予想してつくられた人たち、この計画を実行させた人たちに敬意を表したい。さらに、みごとに育てあげてくれた管理の人たちにこそ、もっとも敬意を表したい。
持続可能な建築というものには、この維持管理の持続性こそが、必要なのである。また持続可能な建築となるには、その建物を持続させたいという気持ちが起こるような魅力がなければいけないのである。ここでは、森のように生い茂った植物が、持続させたいという心を育てていると思う。「桃李自ずと道をなす」である。
住宅雑誌リプラン・96号より転載