ロングランエッセイ
Vol.102 大船遺跡
40年ほど前に、南茅部の農家の奥さんの見つけた土器が、3500年前の縄文時代の中空土偶とわかり、大変精巧で美しかったので10年前に国宝になった。函館のついでに、中空土偶を展示している縄文文化交流センターを訪ねた。道の駅に隣接した展示館は、それほど大きくはないが、中空土偶をぐるりと回れるので、じっくり見ることができた。朝早かったので、たった一人でゆっくりと楽しめた。中空土偶の姿は飽きがこないほど魅力的で、むしろ魅惑的にさえ感じたし、見ているうちに少しずつ大きくなっていくように思えた。
気になる土器があった。小さな子供の足の指を押し付けた板状のものである。産まれてすぐ亡くなった子供をしのんで土版をつくり、それをお守りにして、母親が亡くなった時に一緒に埋葬したのではないかといわれているが、珍しいという。小さな指の跡が並んでいるのを見ていたら、縄文時代という全体のことより、母親と子供の姿が思い浮かび、国宝の中空土偶の凄さもさることながら、むしろ心豊かな家族の暮らしぶりを思い起こした。
その後、近くにある大船遺跡に向かったら、大ぶりな縄文式竪穴住居が骨組みだけであるが、いくつも建てられていた。建築が構造の姿だけになる時、ひとつの美しさを持つが、まさに美しい姿であった。これだけ大ぶりの木材を使えただろうかとも思ったが、迫力を感じた。同時に、このしっかりした家の中で、小さな足の指の押し当てた土器をお守りにした母親や兄弟・父親が暮らしていたと思ったら、縄文時代を身近に感じることができた。
住宅雑誌リプラン・117号より転載