ロングランエッセイ

Vol.103 風垣(カッチョ)

URB HOUSE PHOTO

青森県津軽地方では、冬の激しい吹雪を避けるために、家の前に5メートルほどの高さの板塀を建てている。風垣(カッチョ)と呼ばれ、夏に見にくる人も多い。北海道でも、冬の強い雪と風にさらされる日本海沿いの漁師の家に同じような板塀(カッチョ)がある。海岸沿いの漁村を抜ける道の両側に板塀(カッチョ)が並ぶが、海水浴に向かう人や帰りを急ぐ人には、ほとんど目にとまらない。だから記憶にも残らない。
 しかし、私はこの風垣(カッチョ)が好きだ。長い年月風雪にさらされて、もともと木だったのかもわからなくなるほど、色がすっかり抜け白に近づいた鼠色になった、枯れた風合いが良い。無彩色の地味な色合いであるが、様々な修行を重ねた後に悟りを開いたような、一種爽やかな味わいを持っていて、世俗を解脱したような表情にさえ思える。
 でも、冬にはちゃんと、雪や風を防いでくれているからありがたい。クセの強い材料を少しずつ矯正しながら、騙しながら、使えるようにするのを「枯らす」というが、ここの板は、まさしくすっかり枯れて滋味深くさえ感じる。これは、自然の力を借りて他にはない魅力を創り出されたものであり、今、流行りのアンチエイジングとは真逆の、時間にさらされ、風雪にさらされて、なお魅力的であり続けている見本である。
 さらに、板塀(カッチョ)に感心するところは、暑い夏に海水浴に来る人たちに「この地方では、冬にはもの凄い雪や風なので、こんな風にしないと暮らせないんだよ!」と見せていることである。海水浴場に建てる小屋のようにすぐに消えずに、この土地の冬を教えていることが凄い。来年の夏の海水浴に行ったら、この年季の入った魅力を味わってほしい。


住宅雑誌リプラン・118号より転載


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