ロングランエッセイ
Vol.121 見えるようになった窓
煉瓦の壁に白い枠を取り、その中にフォレストグリーンに塗った木製の窓が見えるようになった。事務所の壁は、最近ずーっと蔦に覆われていて、その中で提灯のような照明器具だけが見えたので、怪しい話が伝わる家のような風情があった。
朝陽が真横から差し込むようになってから、ぐんぐん伸びた蔦が、屋根にまで上り始め、秋に蔦が紅葉すると家全体が真っ赤になって、西線を走る市電に乗る人の楽しみだったらしい。
しかし雪が降ると、積もった雪が蔦に引っかかり、落ちてこないので屋根が痛み、スガモリの危険もあるので、思い切って蔦の根元を切った。今は、わずかな枯れ葉と壁にしがみついていた枝や幹が、煉瓦の壁に模様を作っているが、久しぶりに赤い煉瓦の白い枠の中に緑の窓枠が見えるようになった。やはり、ボサボサ頭を散髪したような、さっぱりと若返った姿になった。
木製の窓枠には、窓を覆っていた蔦の小さな吸盤のような爪痕が残っていたが、これを削ろうとは思わない。手間で、綺麗にする気にはなれない。この壁から三十センチも伸びた葉を付けて、虫や蝶の暮らしを守っていたことを想い出させるきっかけは、残しておきたい。
住宅雑誌リプラン・136号より転載